レポート
とがびプロジェクト
2004

 

 

総合的な学習と美術を通しての開かれた学校作り
〜学校美術館化計画「戸倉上山田びじゅつ中学校」の取り組み〜

千曲市立戸倉上山田中学校 中平千尋
(会報『更埴教育会』掲載原稿、2004年)

1.はじめに
 平成16年10月9日・10日の二日間、千曲市立戸倉上山田中学校で学校全体を美術館に変身させる試み「戸倉上山田びじゅつ中学校」(略して「とがびプロジェクト」)が行われた。これは1年1組と2組の生徒が実行委員会を組織し、総合的な学習の時間に取り組んできた活動である。このプロジェクトの呼びかけに参加したのは、長野県信濃美術館、県内作家13人、県外作家(東京、神奈川、大阪、京都、仙台、インドネシア)15人。昨年度本校卒業生作家4名、本校3学年選択美術受講生徒60人である。全く予想外に大規模になってしまったこの企画であるが、計画・運営・準備をしたのは、1年1組・2組の「キッズ学芸員」であった。大型で強い台風22号が直撃したにもかかわらず、二日間で1131人の来場者があり、それぞれが、美術作品に触れ感動して帰って行かれた。また、そのほとんどの方がキッズ学芸員の真剣な取り組みを激賞してくださった。生徒にとって苦労も感動もあった半年間の取り組みを振り返ってみたいと思う。

2.「東山魁夷の絵を教室に貸してください!」
 「美術を通して総合の時間やってみたいなあ」この3月、生徒をなんとか卒業させ、新入生の学級担任になり、4月に「美術で総合的な学習をやります」と生徒や保護者に宣言した。反応は意外と良く(まさか、ここまでの取り組みになるとは誰も思っていなかった!)総合的な学習を進めることになった。
 5月、総合的な学習の時間を使って長野県信濃美術館を訪れ、東山魁夷の絵を鑑賞した。美術館がどうなっているのか、そこには何があるのかといったことを知るという目的と、更に長野県ゆかりの作家の絵を「とがびプロジェクト」に是非飾って、多くの人の見に来て頂こうと考えたからである。「え?東山魁夷の絵を教室に飾る?」とびっくりしたが、生徒は簡単に借りられると考えたようで、ならば美術館の館長さんに直接交渉してみようということになった。生徒全員が館長室へ通され、緊張した面持ちで実行委員長の生徒が館長・松本猛氏に、「「とがびプロジェクト」というものを計画していて、東山魁夷さんの絵をお飾りたいのですが、貸して頂けませんか?」と尋ねた。松本館長は終始にこやかに優しく、「プロジェクトはとても面白いので貸してあげたいが、日本画は貸せない。展示環境が整い、なぜ借りたいのかもう少し根拠をはっきりさせられたら、リトグラフを貸しても良い」と答えてくださった。それから、東山魁夷をお借りするための地元リサーチ活動「どの魁夷が好きですか?」アンケート調査が始まった。アンケートには地元の方935人が答えてくださった。

3.と・が・び!
 今回のプロジェクトの大きな目的の一つは「生徒が様々な人々と交流し、自分の考えなどを他者に伝える力をつける」ということであった。事前に参加作家の何人かに戸倉上山田に実際に来ていただき、美術を通して生徒と交流してもらった。例えば、横浜在住の画家・鈴木貴美子さんは夏休み中の3日間、来校して細長い紙に鉛筆などで、地面の模様を描くというワークショップを行った。15名程の生徒が自主参加し、暑い中、黙々と制作に打ち込んだ。作品は「地面を描く」と題して、鈴木さんが撮影された生徒たちの写真とともに、10月の「とがび」において校内に展示された。この他、本田博通さんによる4組生徒全員参加の名前一筆書きなどの共同制作も行われた。
 そしていよいよ10月。生徒手作りのポスターやチラシ配りを行い、できる限りの宣伝活動を行った。
8日は会期前日の準備日。東山魁夷作品と池田満寿夫作品を展示する1組と2組の担当学芸員は、ワゴン車で借りてきた衝立パネル40枚と鉄のパイプを、3階の教室まで何度も往復して運んだ。重い物や危険な物、貴重な物を友達と協力しながら丁寧に運ぶという体験は、こういった活動だからこそできる。友と苦労や感動、満足感を共有した前日準備だったように思う。
 9日、とがび第1日目。台風22号と新人戦。入場者数がどこまで伸びるか心配だった。しかし、午前8時の開門と同時に地元の人が押しかけ、実に480人が見に来てくださった。ごったがえす校内があたかも美術館に変身したその光景はまさに圧巻であった。七色の毛糸を教室内、校内、校外に縛ったり巻いたりしていった門脇篤さんの「中学校に虹をかけよう」は空間を暖かく演出した。教室を動物園にみたて、来場者にも動物を描いていってもらう佐々木啓成さんの「とがび創造動物園」は、その昔、荒砥城祉に動物園があったという話から始まったもの。発泡スチロールで作られた巨大なピンホールカメラは圓井義典さんの作品。実際の中に人間が入ることができるサイズで、中には外の景色が美しく映し出されており、カメラの不思議さを体験できる仕組みになっていた。その他、和紙の暖かさを引き出す吉岡伸行さんの照明オブジェや、中学生が抱える問題を音や写真映像を交え、中学生によるパフォーマンスという形で表現したナカムラユミさんなど、この場ならではの魅力ある作品が学校内にあふれた。入場者の方は、東山魁夷などとはまた違った表現に触れる機会となったようである。

4.まとめ
 台風が直撃したことが逆に功を奏し、新人戦中止が相次いで、「とがび」に参加できないと思われた生徒が急遽参加できることになるなどのハプニングもあった。生徒は休日がなくなり疲れた様子であったが、自分達のキッズ学芸員としての活動が、様々な場所で評価されるのを聞き、十分自信を持ったようである。私は、こうしてはじまったこの取り組みや、せっかくできた美術作家とのつながりをうまく続けていけたらと考えている。
 今回の取り組みを通じ、美術を通した学校という場での発表も楽しいものだと、地域や生徒、保護者にも感じていただけたことを実感した。

 

 

 

とがび2004開催までの道のり

※この資料は長野県信濃美術館で行われた「とがびまとめ展」シンポジウム資料をもとに作成しました。

2004年4月
「総合的な学習の時間」として、 戸倉上山田中学校1年1組がプロジェクトを立ち上げる。

5月
生徒たちが
長野県信濃美術館を訪問し、美術館の所蔵する東山魁夷作品を借用したいと松本館長に交渉をする。館長からは貸し出し条件が提示された。

6月
生徒が戸倉上山田地域で東山魁夷作品の人気リサーチを行う。計938人の回答を得、人気順に展示作品を選定したいむね企画書に盛り込む。
1年2組がプロジェクトに合流。これも長野県信濃美術館所蔵の池田満寿夫作品も借用したいと美術館を訪問。
展示の際の作品の取り扱い指導を受けること、展示環境を整備することを条件に、美術館より作品貸出の許可がおりる。

8月
プロジェクトの呼びかけに応じ、県内外(国外含む)のアート作家22名の参加が決定。

9月
生徒とアート作家の交流会開催。
生徒による広報・宣伝活動の開始。

10月
展覧会開催。
生徒は「キッズ学芸員」として、担当した作品の保護や紹介、校内の案内などを行う。また、さまざまな参加作品を見学するとともに、ワークショップにも参加。
初日は午後2時頃に強力な台風が通過。2日目は台風一過、素晴らしい秋空が広がる中、来場者1131名を数えた。

2005年1月
長野県信濃美術館で、代表出展者による「とがびまとめ展」と、「とがびをふりかえって」と題したシンポジウムが開かれる。

 

 


千曲市立戸倉上山田中学校

長野県信濃美術館・東山魁夷館

ながのアート万博

とがび2004ドキュメント

back