長野県中学校連合教科研究会レポート
平成17年11月25日(金)
研究テーマ
○本校テーマ「生徒が主体的に学ぶ総合的な学習の題材はどうあったら良いか」
〜コミュニケーション能力をとがびプロジェクト2005から考える〜
研究の要旨
平成14年発行の、文部科学省委託研究・コミュニケーション学習研究会の報告書で、総括調査官の有元秀文氏は、「多くの子どもたちがコミュニケーションに自信がなく、十分な指導も行われていない」ことに言及し、「積極的にコミュニケーションすること」「明確に意思表示すること」「論理的に首尾一貫した表現をすること」を目標に、コミュニケーションスキルの指導が今後のコミュニケーション学習に重要と記している。ある時、私は本校生徒に「今までで一番楽しかった思い出は何ですか?」と質問してみた。すると、10人くらい「思い出はない」と答える生徒がいた。現代の子どもたちは、コミュニケーションスキルもさることながら、誰かに伝えたいと思える経験や体験がないのではないかと疑問に感じた。
平成16年10月、1年1組、2組を中心に総合的な学習の時間として「学校を美術館にしよう〜戸倉上山田びじゅつ中学校(通称:とがびプロジェクト)」という活動に取り組んだ。活動のねらいは、生徒が不特定多数の人々と関わり、コミュニケーション能力を育てるということである。生徒80名がキッズ学芸員として長野県内外の若手現代作家を招待し、学校全体を美術館として一般公開した活動であり、二日間で1131人の入場者があった。
今年、2学年総合的な学習の時間での選択講座「とがびプロジェクト2005」を受講生徒56名で行った。昨年に比べ、更に充実したキッズ学芸員活動により、意欲的に他者とコミュニケーションする姿(他者に話しかける、評価を聞く、相手の反応を観察する)が見られた。本稿で、生徒にとって、コミュニケーション能力・意欲を高めるためには、誰かに伝えたい、コミュニケーションしたいと思わせる「感動体験、とっておき体験」が必要不可欠であるのではないかという仮説に立ち、総合的な学習の時間で育てるコミュニケーション能力や、そのための題材設定について考察したいと思う。 |
討議してほしい内容(項目的に)
○コミュニケーション能力とは何か。
○コミュニケーション能力を高めるための必要な手だてとは何か。
○より豊かなコミュニケーションとは何か。 |
研究者名 千曲市立戸倉上山田中学校 中平千尋
1 はじめに
「お客さんが作品を見て、とてもきれいね、とかすごいとか言ってくれたことがうれしかったです。来年も是非やってみたいです。」「私の担当していた作品を見たお客さんが、涙を流しているのがすごく嬉しかったです。」10月8日、9日の二日間の「戸倉上山田びじゅつ中学校(通称:とがびプロジェクト)」を終えて、関係したほとんどの生徒は、入場者が喜んでいた様を見て、充実した内容の感想を残している。
このとがびプロジェクトの取り組みは、美術やアートを通して、生徒と作家、地域の方々が交流する総合的な学習の時間の実践として行われた。「地域との連携」「開かれた学校」「生徒によるキュレーション活動」など、これからの教育活動における可能性やキーワードを多く有しているが、この研究では、あえて視点を「コミュニケーション能力」に絞り込み、生徒のコミュニケーションの具体の姿から、中学生に必要な総合的な学習の時間におけるコミュニケーションの育成はどうあったら良いか、考察してみたいと考えている。
2 概要〜とがびプロジェクトとは何か。
T とがびプロジェクト
「戸倉上山田びじゅつ中学校(通称:とがびプロジェクト)」は、平成16年、美術科教諭・中平千尋が、総合的な学習の時間において、「生徒に美術をもっと身近に感じてほしい」と発案、「中学校を美術館にしよう」という趣旨に賛同した県内外の美術作家たちが、生徒達「キッズ学芸員」とユニットを組んで制作した作品を展示するほか、同中学校の選択美術の生徒や卒業生の作品はもちろん、長野県信濃美術館の協力を得て、同館所蔵の東山魁夷作品などを展示したアートプロジェクトである。開催期間中、地域の住民など1131人が入場した。
また、開催後、長野県信濃美術館にてプロジェクトを回顧する「とがびプロジェクトまとめ展〜学校が美術館になった日」がひと月にわたって開催された。開催中は、参加作家や関係した生徒によるシンポジウムが、同館講堂にて開催された。
平成17年は、生徒達「キッズ学芸員」が参加作家を選択し、交渉する活動からスタートし、常に作家と連絡を取り合って作品を仕上げていった。キッズ学芸員の活動の目玉として、「キッズ学芸員によるギャラリートークツアー」を行った。広い校内を迷わず鑑賞して頂くために、校内を案内しながら作品解説をする企画である。また、信濃教育会の「信州子ども絵画100年館」に保存されている千曲市内の作者による絵画作品87点をお借りし、校内の教室を「なつかし絵画展」として展示した。担当生徒は、作品の作者に招待状を書いた。今年は生徒の意欲を高め交流の場を持つために、独自の手だてを組んでいった。
開催後には、中学校が位置する温泉地・戸倉上山田温泉協会の協力を得て、千曲市総合観光会館にて「とがび・アンコール展」が行われた。この取り組みには、温泉協会のみならず、上山田文化会館なども興味を示しており、来年以降、地域へと確実に広がる予感がしている。
U とがび発想の原点
「総合の時間のたびに、生徒同士の中が険悪になる。」私は、総合的な学習の時間の内容を模索していたが、お決まりの調べ学習、まとめ学習、地域へ出てボランティア活動などをやればやるほど、なぜか生徒はけんかをしたり、なじりあったりして仲が悪くなる一方であった。本来、お互いが自分の目的を見つけ、自由に学ぶ学習であるのだから、子ども達は喜ぶだろうと考えていたが、それは大きな間違いであった。自分自身の学級運営のまずさもあり、私のクラスの総合的な学習の時間は、崖っぷちに立たされてしまった。
私が行き詰まってしまった大きな理由は、総合的な学習という枠組み、いわゆる「問題解決学習」「情報活動能力」「ボランティアや国際交流」といった言葉に縛られ、外へはずれることがこわかったことが大きい。「こういう学習内容なのだから、これをやらなければならない」という思いこみに縛られていたのだ。
この束縛から逃れるきっかけになったのは、ある先輩教師の一言であった。「中平さんは美術教師なんだから、美術という得意分野でやればいいんだよ。」私は、その言葉にどきっとしたが、「え?そういう風にしたら総合じゃなくて美術になっちゃうんじゃないですか?いいんですか?」と答えた。すると、先輩教師は、「いいんだよ。美術で。折角得意分野があるんだから、何で美術でやらないの?」と答えた。私は、その時から、方が軽くなり、題材を考える意欲がわいてきた。
美術的な総合の時間。私がやってみたかったことが「学校中に作品を展示して、美術館にしたらきっと楽しいだろうな。美術による学校占領なんてわくわくするなあ」という思いであった。美術科の立場で考えると、そもそも音楽科には「音楽鑑賞教室」というものがあり、子ども達は毎年生演奏を聴く機会に恵まれているのに、なぜ美術科には「美術鑑賞教室」がないのか、疑問である。美術科だって、鑑賞は表現と同じくらい重要なのに、遠い美術館に行かないと作品鑑賞できないなんておかしいと思った。芸術作品を学校に展示すれば、どの子どもも鑑賞することが可能になる。しかも、その作品を誰か大人に展示してもらうのではなく、生徒が借りたい作品を交渉し、一緒に展示したり、管理、説明したりできれば、まさに総合的な学習の時間のねらいに合致すると考えたのである。美術的活動でありながら、作品を表現するという点が薄いので、いわゆる表現が苦手な生徒も関わりやすいと考えたのである。また、私の選択美術での実践の中で、長野県信濃美術館や、長野県内外の作家とつながりがあったため、作品を提供してくれる人が外に多くいたため、生徒が意欲さえもてれば実践可能であると判断し、この企画を進めていこうと思ったのである。
V とがびプロジェクトのねらい
・とがびプロジェクトの準備や当日の活動を通して、不特定多数の他者(作家、入場者、生徒など)と 様々な形で交流することにより、自分の考えや感じていることを伝えたり、他者の言うことを聞いた りして、コミュニケーション能力を育てる。
・専門家や、その作品と出会うことにより、生き方や考え方に触れる。
W 本校の総合的な学習の時間の考え方
本校の総合的な学習の時間は、全学年「地域〜戸倉上山田」というテーマを共通に持っており、基本的に学年の考え方で運営されている。本年度は、1学年は学級の枠を取り払って進めている。2学年は、学級の枠を取り払って6講座を選択する形で進めている。3学年は、学級ごとの計画により進めている。この「とがびプロジェクト」は、2学年の6講座のうちの一つであり、他には、「戸上太鼓」「発見!新名物」「戸上エンターテイメント」「伊能忠敬で地域を測量しよう」「CM大賞に応募しよう!」という講座がある。生徒は自分のやってみたい講座を一つ選択する。
毎週、2時間続きの総合と、1時間のみの総合がある。2学年でとがびは、2時間続きの総合で行った。1時間のみの総合は、主に学年行事や進路指導の時間と位置づけている。本校は二学期制をとっており、前記は、とがびまでで終了した。とがびは後期は行わない予定である。
X 平成16年度第一回「とがびプロジェクト」の様子、残された課題
昨年度行われた第一回とがびプロジェクトは、地域に好評であり、美術を身近に感じてもらいたいという表向きの目的はある程度達成されたように思う。しかし、後日行った生徒への感想を見ると、自分の担当した作家の作品が予想と違い、あまり面白くなかったとか、自分自身の活動に物足りなさを感じていたりとかいう反応もあった。生徒の満足度は、作業がきついわりに50%くらいということであった。「良い活動であることは感じるが、二度とやりたくない」という感想もあった。この反応の原因を考えてみると、作家選びに生徒の意志が反映されていなかったことや、作家と生徒とのコミュニケーション不足が考えられる。何を作ろうとしているのか、何のための作業なのかわからない作業ほどつまらないものはない。一生懸命作ったけど、いまいち面白いと思えない作品は、興味がわかないばかりか、二度と見たくも関わりたくもないだろう。これらの反省を今年に生かすため、次では、生徒の具体の姿から考察してみたい。
3 とがびプロジェクトから見るコミュニケーション能力に関する考察
T 前年度の生徒の姿
上にも記した通り、昨年はどこかお祭り的な盛り上がりがあった。数ヶ月後に、生徒に感想を聞いたところ、活動の満足度は50%であり、実践者の私にとっても、衝撃的な結果であった。「あれほどの活動をしたのに、何が子どもたちにとって足りなかったのだろう?」と原因がよくつかめずにいた。
よく活動を振り返ると、16年度の取り組みには、生徒が自己選択したり、作家とコミュニケーションを取る場面が想像以上に少なかったことがわかった。一回目の活動ということで、中平の元に集まってくれた作家への生徒の割り振りは表面上は生徒が決めていたが、少ない情報の中から自分の嗜好にあった作家を選ぶことができる中学生は、日本中のどこにもいないだろう。また、作家のことをよく知らないために、作品についてお客さんに説明するなど不可能に近い。こう考えると、一回目のとがびは、生徒にとって、「やらされた活動」とは言えないが、極めて生徒の自主性が発揮されない活動であったと認めざるを得ない。
では、一回目のとがびに何が足りなかったのだろうか。一回目のとがびは、いわゆる言われた事を忠実に行う学校教育の一授業と何ら変わることのない活動であったのではなかろうか。つまり、一方的に与えられたことを与えられた通り行う、退屈きわまりない活動、美術と言いながら全く創造性のかけらもない時間だったのかもしれない。生徒全員がそうであったわけではないが、そう感じていた生徒もいたはずである。そこには明らかに、自己選択と、コミュニケーションが不足していたように思う。自己選択、つまり作家を自分で選ぶことにより、自分の好きな作家と活動ができ、活動意欲は盛り上がるはずである。また、好きな作家や自分の選んだ作家であれば、多少きつい作業や制作でも、わくわくしながら活動できるはずである。また、自分が関わった作品であるからこそ、他者から作品について質問されても、その作品がどのような意図で作られ、どんな材料が使われ、作業がどれほど大変であったか伝える事が出来るであろうし、伝えたくなるであろう。今年度、これらの条件が整えば、生徒はきっと意欲的に活動するだろうと考えた。
U 仮説
このような生徒に
@不特定多数の他者と話したり、自分の意見を伝えることが苦手な生徒に
@美術にあまり興味がない生徒に |
このような手だてで
@作家を自分で選び、手紙などで出品交渉をすることで
キッズ学芸員として校内をギャラリートークツアーで巡ることで
A作家と一緒に作品制作をすることで |
こうなるだろう
@他者と話しをしたり、話しを聞くことを楽しめるようになるだろう。
自分の考えをまとめることができるようになるだろう。
A美術作品を制作したり、鑑賞することに興味を持つようになるだろう。 |
V 平成17年度第二回「とがびプロジェクト2005」の活動の流れ
| 段階 |
月 |
●活動の主な流れ 「生徒の反応」 ○教師の支援『』 |
課題把握T
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6月
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●学年で講座立ち上げ。希望調査。とがびには56名の生徒参加決定。
●とがびオリエンテーション。今年の入場者数目標2005人に決定。実行委員会立ち上げ。正副委員長決定。今年の日程と作家への交渉の確認。「どんな作家にしようかなあ。」
●呼びたい作家選択開始。「インターネットで調べよう。」「本当に来てくれるのかなあ」
手紙やメールを送る。○画集や美術雑誌を準備しておく。
○返事が来ない作家、断りの手紙などを生徒に丁寧に届ける。『次の作家を探してみようか。こんな作家はどうかな?』 |
展
開
T
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7月
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●学芸員活動T:看板、ポスター、ギャラリートーク、パンフレット、なつかし絵画展、の係決め。係長なども決める。活動開始。○基本的に生徒による主体的活動を教師は支援する。活動内容と外部講師を決めた後は、生徒に任せる。
●信濃美術館学芸員の伊藤さんと足立さんを招き、指導に当たって頂く。生徒は、学芸員さんに色の使い方など積極的に質問していた。○校内地図を寺島デザイン事務所にお願いした。 ポスター係にプロとして関わって頂いた。
○仙台在住の作家・門脇篤氏による「とがびホームページ」「とがびブログ」開始。 |
8月
(夏休みも含む)
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●なつかし絵画展係は、信濃教育会を訪ね、「信州子ども絵画100年館」の所蔵庫から千曲市内の入選作品87点を借用してくる。「かなりたくさんあったなあ」「近所のひとの絵もあったのが驚いた」。入選者に招待状を書く。○貴重な作品なので扱い方を生徒にレクチャーしておく。
●門脇篤担当班は、作家の指示により、上山田温泉を写真取材活動を行う。○教師は、前もって温泉観光協会に連絡を取り、活動計画を提出しておく。
●希望者を募り、長野県信濃美術館の「元永定正展」を見学する。学芸員さんによるギャラリートークを体験する。 |
課題把握U
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9月
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●学芸員活動T完了。
●学芸員活動U開始。担当作家全員決定。○なかなか決まらなかった生徒には、前年産か作家などを教師が紹介する。
●作家からのメールや手紙などの指示をもとに、材料調達や制作を始める。(集めた材料例:綿、廃棄する本、流木など)役場へ行き、綿を譲ってくれそうな家を紹介してもらい、いらない布団をもらった班もあった。 |
展
開
U
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10月
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●学芸員活動Uをすすめる。作家の指示による制作をすすめる。放課後残って制作する班もあった。
●寺島デザイン事務所の校内地図が完成し、手の空いたひとは折る活動をする。
●休日を使って、いくつかの班は展示用パーテーションで展示シミュレーションを行う。「思った以上に大変だ」「電気の照明をうまく付けられないなあ」「一回練習してみて良かったです」○展示用パーテーションを事前に公民館で借りておく。 |
| とがび前日10/7 |
●午前中から登校し、作家と初めて会い一緒に展示する。
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とがび当日10/8,9
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●生徒はキッズ学芸員として作品管理、説明、などを行う。基本的に作品から離れない。交代で他作品の鑑賞をする。「おもしろい作品がたくさんあるなあ」
●最終日終了後、作品撤収と片づけを2時間以内で行い、下校する。 |
| まとめ |
10月
下旬 |
●活動を振り返り、感想と反省をする。参加していただいた作家への感謝とお礼の手紙を書く。「やって良かった。来年もやりたい」 |
V 平成17年度第二回「とがびプロジェクト2005」における生徒の具体の姿
「昨年と比べると、生徒が慣れてきたせいもあるかもしれませんが、コミュニケーションが上手になってきた気がしますね。」これは、昨年に引き続き今年も参加された県外の作家の言葉である。今年度、生徒の活動の様子を見ていて、一番驚いたことは、落ち着いて作品管理をし、様々な質問に答えていた姿であ
る。また、次のように、鑑賞している他者の姿を生徒が興味を持って観察していることがわかる。
・私の担当した326の作品を見て、涙を流している人がいてすごくうれしかったです。(感動の涙です。)
・心に残ったことは、観客の人が、すがすがしい顔をしていたことが心に残った。
・みんな良かったって言ってくれたから、すごく良かった。来年も楽しみにしています。
・観客の方々は、道に迷ったりして困って聞いてきた。でもあまりうまく説明できなかったので、また こういう機会があったら、うまく説明をしたい。
・私の説明を聞いて、「さっそく作品をみつけなくちゃ」とか、カメラ作品を見て「すごーい!」とか「ど うしてこうなって映るの??」とか言ってくれる人がいると、嬉しかった。
・観客が目を輝かせて見ていて良かった。
・年の行ってる人とか、同じ学年の人がすごくちゃんと見ていたし、解説もちゃんと聞いてくれた。
・観客の人々は、みんな一人一人違う印象を作品に持っていて、戦争の作品の所は、見るのをためらっ ていた人がいて、とても印象に残った。
・来てくださったお客さんが「綺麗な絵だねえ」と言っていたので、やって良かったと思った。 |
観客の一つ一つの小さな動き、表情の変化、発せられる言葉を興味を持って観察している様子に驚かされる。その観察は、自分から次発せられるであろう言葉や表情、行動を自分本位のものから、他者を意識したものへと変貌させるはずである。自分が一生懸命参加を交渉し、達成され、時間を掛けて展示までこぎ着けた作品、誰かに見せたいと思っている作品なのであるから、他者の反応が気になるのは当然であろう。とがびの場では、美術作品を通して、コミュニケーション(相手の話を聞く、自分の伝えたいことを伝える、相手の反応を見る)が実に自然に行われていた。この、生徒の一連の活動から、コミュニケーションとは、誰かに伝えたいというとっておきの話しの種があって初めて達成されるのではないかと、考えられる。
W 考察
コミュニケーションとは何か。
コミュニケーションの原動力は、感動経験。
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生 徒(意欲的。自分の選んだ作家だ) |
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コミュニケーションの成立A |
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他者 |
どんな反応があるかな? |
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もっと見に来ないかなあ |
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作品(共同制作コミュニケーションの成立@ |
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すごい!感動
とっておき経験 |
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誰かに見せたい
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他者
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喜んでるぞ! |
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作 家 |
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他者 |
うれしいなあ |
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どう説明しようかな?
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コミュニケーション達成され、更により良くコミュニケーションしたい気持ちへ高まる。
4 まとめ
T コミュニケーションの原動力は、「とっておき経験」である。
今まで、総合的な学習の時間では、「コミュニケーション能力」がかなりの頻度で付けたい力として扱われてきた。しかし、活動が英語的なものや国際交流的なものに限られていたことは事実である。平成14年度文部科学省委託研究・コミュニケーション学習会報告書では、総合的な学習の時間におけるコミュニケーション能力の育成のねらいは「積極的にコミュニケーションすること」「明確に意思表示すること」「論理的に首尾一貫した表現をすること」などコミュニケーションスキルに限定している。しかし、私は、スキルや技能を教えれば、本当に子どもたちは自分のコミュニケーションに自信を持ち、積極的にコミュニケーションするようになるのだろうか。と疑問に感じてきた。結論から言うと、現代の子どもがなぜコミュニケーションが下手と言われているのか、その理由は、スキル不足もあるだろうが、根本的に「誰かに話したいとっておきの話し」がないからだろう。とがびでの実践のように、誰かに絶対見てもらいたい作品を前にして、子どもたちは、極めて雄弁に堂々と、コミュニケーションしている。積極的で、明確であり、また首尾一貫したコミュニケーションをしているのだ。
「日本の語学教育で欠けていることは、スピーチ技法や会話技法などのスキル学習に偏っていて、とっておきの話しや経験を持つ面白い人間、この人と話してみたいと思わせる人間の育成をしていないことだ。」これは、信濃美術館館長・松本猛氏の言葉である。氏は、毎年新人職員採用試験で、英語や語学力が堪能ではあるけれど、面白さや、人の温かさを持った人間になかなか出会えないことを上のような言葉で表現した。
この言葉の正しさがとがびを通して私には実感できたように思う。スキルを覚えても、コミュニケーションの原動力となる「誰かに話してみたいこと」がなければコミュニケーションしたい意欲などわきようがない。ましてや、何か強制的に話さなければならないことが続けば人間は誰でも語ることを面倒くさくなるだろう。今回のように美術やアートといった、ある種日常から飛躍し、空間を異質化する行為にはインパクトや驚きがあり、コミュニケーションを活性化する要素が多分に含まれていることは言うまでもない。とがびプロジェクトでは、作品作りや鑑賞といったいわゆる美術の楽しみを感じることだけではなく、コミュニケーションの楽しさも子どもたちや、参観者も味わってのである。その点が、美術のように物を媒介とした活動の魅力であり、可能性であると感じる。
U 来年度「とがびプロジェクト2006〜地域へ」に向けて
来年度は、とがびが行われるのかどうかは、学校体制の問題もあるので、はっきりしないが、もし第三回目が行われるとしたら、次のことを是非やってみたいと思っている。今回までの二回の取り組みで、地域へはある程度定着してきたようなので、手だてしだいで、地域との連携を通し、より生徒がコミュニケーションする相手を幅広くすることができる。
@もっと入場者を多くするために生徒が小学校、役場、保育園などへ出張し宣伝してくる。
A地域にも作家を招待し、地域ボランティアを中心にとがびに合わせ街中美術館にしてもらう。
その活動説明プレゼンテーションを地域と生徒が一緒に行う。
B小学校、福祉施設などへ行き、団体ギャラリートークの予約を取ってくる。
Bより素晴らしい作品を生徒が探し、作家と交渉する。 |
総合的な学習の時間は、思い切って始めてみると、思ってもいない方向から助けが入ったり、注文が入ったりするものだ。しかし、予定外のものこそ活動発展または、教育の本質をつくものがある。そこにうまく乗っていけば、素晴らしい活動になることもある。子どもに「やって良かった」と思わせる活動をしていきたいと思う。
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