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「とがびプロジェクトの意義と展開」
〜長野県に「美術文化」を育てるために、 中学校で協会のない美術館を開く価値と意義〜
※本テキストは、とがび2004の折に表明されたものです。
| ●発想の原点 |
美術雑誌の記事によると、今、美術館などへのお客さんの数が激減しているようです。特に現代美術の展示になると集客数はさっぱりだそうです。教育と社会は一体であると考える私にとって、この状況は残念でしかたがありません。
教育現場はどうでしょうか。教育大学教員養成科のことですが、小学校教員養成に関して、図工美術がなくなり、美術を学んでいない教員が学校で図工を教えています。当然そういう教員は現代美術どころか美術の鑑賞すらしたことはないのです。
一方、学習指導要領には「鑑賞」の領域が増やされ、作品をつくるだけではなく、見る力や楽しみを育てるようにと書かれていますが、現状はどうでしょう。相変わらず美術は特別なものであり、趣味を持つ一部の人だけのものになっているのではないでしょうか。
この状況を作ってしまった美術関係者、特に美術教師の責任は重大だと考えています。全く努力不足であったと認めざるを得ません。このままいくと、長野県の美術やアート、美術教育はまったく死滅してしまうでしょう。
この閉塞した環境の中、私は次のような夢を持ちました。「美術館、作家、中学生、地元作家が、一同に様々な作品を展示したらどうだろう。今まで美術館やギャラリーがなかなか実現できなかった展示ができて楽しいはずだ。しかも、会場を中学校など学校にすれば、場所代もかからないし入りやすい。今まで見たこともない様々な作品を見ることにより、素晴らしい鑑賞体験ができるだろう。生徒の学習の場にもなりうるではないか」
何故、今までこのような取り組みがなされなかったか、逆に不思議です。つまり、それは学校の教員がそういう発想に立って日々実践していなかったからだと思います。
美術を通して地域に開かれた学校を作り、生徒が美術に興味を持つ。作家同士も交流できる。東山魁夷が長野県に存在するという事実を地元に認識してもらえる。これは将来美術の存在感を見直して頂ける機会になるのではないだろうか。美術ファンを確実に増やすきっかけになるのではないかと確信しています。
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| ●今後の展開 |
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今回(※とがび2004のこと。以下同様)成功したら、まずは同じような実践をしてもらえる学校を増やしたいと思います。また、千曲市で言うと、戸倉上山田温泉の再復興のために、アートが役割を果たせたらとても良いと考えています。そのためにも、次回から参加作家は個人制作だけでなく、積極的に自分をアピールするためにも、地域素材を用いて作品発表をしてもらいたいです。学校教育では、今回多くの方が見に来て頂ければ、生徒や子ども自身が美術に対する感じ方が変わり、次回の企画のために作家を自分たちで選抜したり、場所を変えたりするかもしれません。本プロジェクトは持っていき方次第で充分将来の「美術文化」を育成するためのきっかけと成りうるのです。
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「総合的な学習と美術を通しての開かれた学校作り」
〜学校美術館化計画「戸倉上山田びじゅつ中学校2004」の取り組み〜
※本テキストは2004年の会報『更埴教育会』に掲載されたものです
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1.はじめに
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平成16年10月9日・10日の二日間、千曲市立戸倉上山田中学校で学校全体を美術館に変身させる試み「戸倉上山田びじゅつ中学校」(略して「とがびプロジェクト」)が行われた。これは1年1組と2組の生徒が実行委員会を組織し、総合的な学習の時間に取り組んできた活動である。このプロジェクトの呼びかけに参加したのは、長野県信濃美術館、県内作家13人、県外作家(東京、神奈川、大阪、京都、仙台、インドネシア)15人。昨年度本校卒業生作家4名、本校3学年選択美術受講生徒60人である。全く予想外に大規模になってしまったこの企画であるが、計画・運営・準備をしたのは、1年1組・2組の「キッズ学芸員」であった。大型で強い台風22号が直撃したにもかかわらず、二日間で1131人の来場者があり、それぞれが、美術作品に触れ感動して帰って行かれた。また、そのほとんどの方がキッズ学芸員の真剣な取り組みを激賞してくださった。生徒にとって苦労も感動もあった半年間の取り組みを振り返ってみたいと思う。
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| 2.「東山魁夷の絵を教室に貸してください!」 |
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「美術を通して総合の時間やってみたいなあ」この3月、生徒をなんとか卒業させ、新入生の学級担任になり、4月に「美術で総合的な学習をやります」と生徒や保護者に宣言した。反応は意外と良く(まさか、ここまでの取り組みになるとは誰も思っていなかった!)総合的な学習を進めることになった。
5月、総合的な学習の時間を使って長野県信濃美術館を訪れ、東山魁夷の絵を鑑賞した。美術館がどうなっているのか、そこには何があるのかといったことを知るという目的と、更に長野県ゆかりの作家の絵を「とがびプロジェクト」に是非飾って、多くの人の見に来て頂こうと考えたからである。「え?東山魁夷の絵を教室に飾る?」とびっくりしたが、生徒は簡単に借りられると考えたようで、ならば美術館の館長さんに直接交渉してみようということになった。生徒全員が館長室へ通され、緊張した面持ちで実行委員長の生徒が館長・松本猛氏に、「「とがびプロジェクト」というものを計画していて、東山魁夷さんの絵をお飾りたいのですが、貸して頂けませんか?」と尋ねた。松本館長は終始にこやかに優しく、「プロジェクトはとても面白いので貸してあげたいが、日本画は貸せない。展示環境が整い、なぜ借りたいのかもう少し根拠をはっきりさせられたら、リトグラフを貸しても良い」と答えてくださった。それから、東山魁夷をお借りするための地元リサーチ活動「どの魁夷が好きですか?」アンケート調査が始まった。アンケートには地元の方935人が答えてくださった。
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| 3.と・が・び! |
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今回のプロジェクトの大きな目的の一つは「生徒が様々な人々と交流し、自分の考えなどを他者に伝える力をつける」ということであった。事前に参加作家の何人かに戸倉上山田に実際に来ていただき、美術を通して生徒と交流してもらった。例えば、横浜在住の画家・鈴木貴美子さんは夏休み中の3日間、来校して細長い紙に鉛筆などで、地面の模様を描くというワークショップを行った。15名程の生徒が自主参加し、暑い中、黙々と制作に打ち込んだ。作品は「地面を描く」と題して、鈴木さんが撮影された生徒たちの写真とともに、10月の「とがび」において校内に展示された。この他、本田博通さんによる4組生徒全員参加の名前一筆書きなどの共同制作も行われた。
そしていよいよ10月。生徒手作りのポスターやチラシ配りを行い、できる限りの宣伝活動を行った。
8日は会期前日の準備日。東山魁夷作品と池田満寿夫作品を展示する1組と2組の担当学芸員は、ワゴン車で借りてきた衝立パネル40枚と鉄のパイプを、3階の教室まで何度も往復して運んだ。重い物や危険な物、貴重な物を友達と協力しながら丁寧に運ぶという体験は、こういった活動だからこそできる。友と苦労や感動、満足感を共有した前日準備だったように思う。
9日、とがび第1日目。台風22号と新人戦。入場者数がどこまで伸びるか心配だった。しかし、午前8時の開門と同時に地元の人が押しかけ、実に480人が見に来てくださった。ごったがえす校内があたかも美術館に変身したその光景はまさに圧巻であった。七色の毛糸を教室内、校内、校外に縛ったり巻いたりしていった門脇篤さんの「中学校に虹をかけよう」は空間を暖かく演出した。教室を動物園にみたて、来場者にも動物を描いていってもらう佐々木啓成さんの「とがび創造動物園」は、その昔、荒砥城祉に動物園があったという話から始まったもの。発泡スチロールで作られた巨大なピンホールカメラは圓井義典さんの作品。実際の中に人間が入ることができるサイズで、中には外の景色が美しく映し出されており、カメラの不思議さを体験できる仕組みになっていた。その他、和紙の暖かさを引き出す吉岡伸行さんの照明オブジェや、中学生が抱える問題を音や写真映像を交え、中学生によるパフォーマンスという形で表現したナカムラユミさんなど、この場ならではの魅力ある作品が学校内にあふれた。入場者の方は、東山魁夷などとはまた違った表現に触れる機会となったようである。
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| 4.まとめ |
台風が直撃したことが逆に功を奏し、新人戦中止が相次いで、「とがび」に参加できないと思われた生徒が急遽参加できることになるなどのハプニングもあった。生徒は休日がなくなり疲れた様子であったが、自分達のキッズ学芸員としての活動が、様々な場所で評価されるのを聞き、十分自信を持ったようである。私は、こうしてはじまったこの取り組みや、せっかくできた美術作家とのつながりをうまく続けていけたらと考えている。
今回の取り組みを通じ、美術を通した学校という場での発表も楽しいものだと、地域や生徒、保護者にも感じていただけたことを実感した。 |
中学校を美術館に変えよう!
〜戸倉上山田びじゅつ中学校2005〜 キュレーターになった中学生
※本テキストはとがび2005についての報告書として書かれたものです。
| 1.はじめに |
「学校を美術館にして、アートで占領したらどんなに痛快だろう」私は教師になって今年で10年目であるが、ずっとそんな夢を持っていた。美術館やギャラリーで見られる素晴らしい作品群を生徒に鑑賞してもらい、美術を少しでも身近に感じてもらいたいという思いからである。
二学期制を敷く本校独自の学期間休業を利用し、今年2回目となる「戸倉上山田びじゅつ中学校2005」は2日間の日程で一般公開された。2学年の「とがびプロジェクト」講座を希望した生徒56人が「キッズ学芸員」となり、美術作家への交渉から制作補助、展示方法の検討や実際の展示作業、鑑賞者へのギャラリートーク(作品説明)までを自主的に行った活動である。長野県信濃美術館から東山魁夷作品を、松本市在住のコレクターからは奈良美智作品を借り受けたほか、326(ナカムラミツル)、天明屋尚、門脇篤、関野宏子、もりやゆき、山元ゆり子、室木おすしなど美術作家には生徒と共同で作品制作をしていただいた。
今年は2日間で715人の入場者を数え、昨年今年の2年間で入場者は2000人あまりにのぼることになる。入場者からの感想としては、校内所狭しと展示された生徒や作家の作品群に対する感動の声だけでなく、「中学生の生き生きとした取り組みに感動しました」と、中学生の意欲的な姿に感銘をおぼえる声が多かった。そしてまたそれを読んだ中学生は、また来年度への意欲を感じている。「来年はもっと地域へ出て行こう!」これこそが、このプロジェクトの醍醐味である。 |
| 2.発想の出発点 |
このプロジェクトへの取り組みは、総合的な学習の時間での活動が中心であるが、いわゆる美術の必修授業での基礎・基本作りがあったことは言うまでもない。必修教科の授業で、鑑賞と制作をつなげ、校内にいつも生徒作品が展示されるよう努力して、美術を身近に感じられる土壌を作っていったことにより、生徒の美術に対する関心や意欲が高まり、生徒が学校美術館という共同のイメージを持っていった。
第1回とがびプロジェクトが行われる前年、平成15年度の3年選択美術では、長野市にある「もんぜんぷら座」において、「光の美術館」と題した生徒作品展を行った。この展示の目的は、長野市でももっとも人が集まる場所として知られる「もんぜんぷら座」で、生徒作品を不特定多数の方々に見ていただき、直接評価を得ることで、生徒に表現することや展示することに対する意欲を持ってもらうことにあった。2週間の展示であったが、700人を超える入場者があり、多くの方々が、作品と一緒に置いた感想記入用メモに感想を書いてくださった。この感想を読んだり、あるいは実際に作品を展示している様子を見たかったりして、自分たちの住む千曲市から電車に乗って会場へ行く生徒が多数にのぼった。こうした生徒の姿から、「多くの人の見せること、見られることは、生徒の意欲を高めることに有効なのだなあ」と確信したのである。
生徒だけでなく、保護者、地域の方々が美術を通して楽しいひとときを過ごせるもの、それが「学校を美術館にしよう〜戸倉上山田びじゅつ中学校」である。中学生の作品だけでなく、一線で活躍する作家の作品、美術館が収蔵する作品などを学校に一斉に展示すれば、地域の方々は気軽に鑑賞に訪れることができるし、中学生の活動をその場で評価してくださるのではないか。それが、中学生の自信や意欲につながると考えたのである。平成16年度の1回目に引き続き、今年2回目も多くの生徒が参加してくれ、保護者、先生方、長野県信濃美術館、長野県内外の現代作家らもこの趣旨に共感し、協力してくれた。特に長野県信濃美術館は、2年連続で貴重な東山魁夷作品を貸し出していただくとともに、学芸員の方々には展示方法や作品説明のご指導をいただけている。本当にありがたい思いでいっぱいである。 |
| 3.感動の二日間〜キッズ学芸員としての中学生 |
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昨年平成17年の第1回とがびプロジェクトでは、初めての活動ということもあって、参加してくださる作家を教師側で生徒に割り振り、その「お手伝い」という形で中学生は参加していたが、それでは意欲が下がると考え、第2回目の今年は、生徒に呼びたい作家に交渉させてみることにした。
6月、活動が開始した。生徒は、いろいろなメディアを使い、気に入った作家を捜していった。イラストレーター、画家、彫刻家など、見つけては手紙を書く仕事をしていったが、中には断られ、返事すらも来ないこともあった。夏休み中は、自分たちが担当する作家からメールで届いた指示に従い、戸倉上山田温泉の取材に出かけたり、美術館を訪れたりと、活動が本格化していった。どの生徒も、飽きたり、投げ出すことはなかった。
昨年不評であった、「校内地図が見にくく、迷ってしまった」という点を反省して、長野市内のデザイン事務所にガイドマップの制作をお願いすることになった。デザイン事務所の方が来校され、生徒と語る中で、デザインの仕事についてお聞きする場面もあった。また、鑑賞者に対し、校内展示を「キッズ学芸員」が説明しながら案内していく「ギャラリートークツアー」の練習も授業の中で行っていった。長野県信濃美術館の学芸員の方々が、ギャラリートークで大切なことなどを教えてくれて、多くのことを学んだようであった。開館日が近づき、放課後居残って作家からの作品作りを続ける生徒、作品の中に使う綿をもらうために、近所の方から譲ってもらったと誇らしげに語る生徒。一人一人に、とがびまでのドラマが生まれていったようである。
そして、いよいよ10月8日、「とがびプロジェクト2005」の開館日である。京都から参加してくださった作家の作品があまりに美しく、感動的であるということを、担当キッズ学芸員が口々に語っていた。「すごいんだよ。とにかく。先生も早く見に来てよ」昨夜遅くまで準備に苦労していた生徒達である。その顔は、早く多くの人に作品を見て感動してもらいたいとう輝きに満ちていた。「このプロジェクトをやって、良かったな」と私自身も満足した瞬間である。写真家の方の作品の展示場所へ行った。校内のいろいろな場所にピンホールカメラが設置してあり、それを覗くと美しい風景が映し出されるというもの。その作品の紹介をするにあたって、キッズ学芸員は、「ハイテンションコース」と「ノーマルコース」の2つを作りだし、お客さんの希望にあわせて案内するというやり方で人気を博していた。
伝えたいものがあり、伝えてほしい相手がいることで、子ども達は、なんと発想力豊かに活動するのだろうと、感心してしまった。中学生のコミュニケーション力が低下しているなんて、いったい誰が言っているのだろう。戸倉上山田中学校の中学生は、こんなにも豊かだ。
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| 4.まとめ |
ある保護者は、会期終了後、私にこう言った。「今まで美術に興味がないようだったうちの娘が、とがびに参加して、夜も寝ずに作品作りをしていた。美術を好きになるきっかけを与えてもらいました」この言葉に私自身、とても勇気づけられたように思った。確実に届いているものは届いている。とがびの感想用紙で、有名イラストレーターの担当キッズ学芸員は、「入場者の方で、作品を見て涙を流している人がいました。2度3度と繰り返し見に来てくれる人もいました。本当にやって良かったです。」と書いている。自分たちの活動が、どれだけ周りの人に影響を与え、評価されたかを実感している様子である。
また、今年で2回目の参加になる作家において、展示作品撤収が全て終了した後、長い時間生徒と語り合い、中には名残惜しく抱き合っている作家と生徒もいた。期間は終了したが、未だに作家から生徒へ手紙が届き、その度、生徒は「やってよかったなあ。来年もやろうね」と言っている。
この活動で、生徒にどんな変化が見られたか、どんな力が身に付いたかなど考えることは拙速であろう。少なくとも言えることは、あの2日間で経験した美術やアートによる夢のような瞬間は、いつまでも思い出に残り、話のたびに「すごい物を見た」という話の種になるだろうということである。コミュニケーション能力について語るとすれば、コミュニケーションのスキルよりも、人間として話したい事柄を多く持っているということが大事で、特に誰もが経験したわけではない、自分だけのとっておきの経験が重要なのではないかと思う。今回のとがびの活動で、とっておきの経験と、活動への不特定多数の方の反応と評価が得られたことは、子ども達が外へとアクションを起こしていくきっかけになっていくのではないだろうか。その経験が力となり、変動の多いこれからの時代を、豊かに切り開いていってくれることを期待してやまない。 |
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